早野忠昭 × 長谷部健

今年4月に日本陸上競技連盟と相互協力する協定を締結した渋谷区。JAAF RunLinkとの連携もスタートした今後、どんな街を目指し、どんな発信をしていくのでしょうか。40歳からランナーとなった長谷部健区長と、早野忠昭チーフオフィサーが渋谷区と日本のランニング界の未来を語り合いました。

早野忠昭

早野忠昭(はやの ただあき)

1958年生まれ。長崎県出身。一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター、日本陸上競技連盟総務企画委員、国際陸上競技連盟ロードランニングコミッション委員、スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会委員、内閣府保険医療政策市民会議委員。1976年インターハイ男子800m全国高校チャンピオン。筑波大学体育専門学群卒業後、高校教論、アシックスボウルダーマネージャー、ニシ・スポーツ常務取締役を歴任。

HYDE

長谷部健(はせべ けん)

1972年3月28日、東京都渋谷区生まれ。専修大学商学部を卒業後、博報堂に入社する。2003年1月には清掃活動等を行う特定非営利活動法人グリーンバードを設立して理事長に就任し、4月には渋谷区議会議員選挙に無所属で出馬して初当選。2015年まで3期、渋谷区議を務めた。その2015年には渋谷区長選挙に出馬して当選し、現在は2期目を務めている。ランニングは40歳から始め、フルマラソンのベストは3時間7分。

個々の健康促進活動を
評価していく社会に

ヒントはボウルダーにあった

早野 ■
私は1993〜1997年にアメリカコロラド州のボウルダーで生活していました。今では高地トレーニングのメッカとして知られますが、当時はQちゃん(高橋尚子)がまだ出てきていない、有森裕子の時代です。日本がボルダーで高地トレーニングを行うようになったのは、彼女の代からなんです。
長谷部 ■
僕もボウルダーには行ったことがあります。41歳の時。Qちゃんが走っていたのを見て、せっかく行くならとマグノリアロードも走りました。
早野 ■
マグノリアロードに杭を打ったのは私です(笑)。
長谷部 ■
そうなんですか!? 正直、あそこを走るのは苦しかったです。ただ、ご飯もおいしいし、オーガニックなあの世界に魅せられましたね。あとトレイルコースの良さにも改めて気づきました。代々木公園で土のコースを走ってはいましたが、ボウルダーのトレイルは本物だなって思いました。その後にオレゴン州のナイキ本社に行った時に走ったのは人工のトレイルコースでしたが、人工でもこれほど素敵にできるんだと感動しました。
早野 ■
なかなか渋谷のど真ん中に作ることは難しいですけどね。
長谷部 ■
でも、できなくはないなと思いながら、いつも街を眺めています。

早野忠昭 × 長谷部健

40兆円超の医療費問題

早野 ■
私自身は競技の世界からスポーツに入ってきましたが、ボウルダーでの生活を通して、スポーツってそれだけじゃないんだなと気づきました。ボウルダーはトップ選手たちの高地トレーニングの場として有名ですが、現地に住む人も楽しそうに走っているんです。皆、朝6時半から仕事をして、夕方4時半から走りに行き、終わった後にワイワイとメインのパールストリートでお酒を飲んでいるんです。その姿、そのライフスタイルが本当に美しいんです。当時も今も、日本にはないものです。
長谷部 ■
走るというと、日本ではどうしてもストイックな印象がありますよね。
早野 ■
そうなんです。だから、学校の教育でも足の速い人が体育の通知表は5で、遅い人は2とか3。でも、東京マラソンを走る人のほとんどが通知表が5ではない人たち。そういう人たちって、オリンピックのメダルを目標に走っているわけではありません。もちろん仲間と競ったり、過去の自分と競ってタイムや順位を追いかけている人もいますが、多くの人が走り終わった後のビールを楽しみにしていたり、あるいは音楽やファッションを目的に走っていたりもします。JAAF Linkはそうした人たちの励みになったり、サポートできる世界を作ることを目指した組織です。我々はそれをウェルネス陸上と呼んでいて、「楽しく長く、ケガなく続けられるか」という課題を企業と一緒に考えていく仕組みを作っていくことが役目だと思っています。
長谷部 ■
皆が走って健康になれば、日本の医療保険費も下がるわけですからね。
早野 ■
そうです。ただ、走るきっかけを持てなかったり、走ること自体がまだ社会的に評価されていないのが実情です。たとえば、企業が社内で走っている社員を評価するシステムを作れれば、走る時間を確保しやすくなりますよね。人事部では社員を企画力がある、指導力がある、協調性があるといった項目で評価します。それと同じように、その人が走っているかどうか、健康かどうかを数値化して評価できる仕組みができれば、多くの人が健康管理にもっと意識を向けるでしょう。日本の医療費は40兆円を超えています。その9割が成人病起因だと言われている今だからこそ、そうした仕組みが日本の医療費削減にもつながると私は考えています。
長谷部 ■
ランではなく、ウォークでもいいと思います。その裾野を広げられれば当然、渋谷区民の健康にもつながるので、僕もそれには賛成です。