松島 倫明×鹿野 淳×上田 唯人×大東駿介

今回は、特別編として6月に開催されたRunning Week 2019で実施されたトークセッションの様子をお届けいたします。
テクノロジーを切り口に未来を考える『WIRED』、独自の視点で新たな音楽メディア/シーンを創造する音楽雑誌『MUSICA』、ランニングカルチャー誌『走るひと』と、まったく違う分野で高い支持を得る雑誌の発行人/編集長たちが、それぞれの視点から、ランニングとカルチャーの関わりを語りあったトークセッション。トーク後半では、自身もランナーで、スポーツとも関わりの深い俳優の大東駿介さんをゲストに迎え、様々なカルチャーに関心を寄せる大東さんならではのお話も伺いました。

松島 倫明(『WIRED』日本版編集長)

松島 倫明(『WIRED』日本版編集長)

東京都出身、鎌倉在住。編集者として世界的ベストセラー『BORN TO RUN』の邦訳を手がけて自身もトレイルトランナーとなり、5年前に鎌倉に移住して裏山をサンダルで走っている。『脳を鍛えるには運動しかない!』『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』『マインドフル・ワーク』『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』などで新しいライフスタイルとウェルビーイングの可能性を提示してきた。2018年6月より現職。最新号の特集は「Digital WELL-BEING」。

鹿野 淳(音楽ジャーナリスト/『MUSICA』発行人)

鹿野 淳(音楽ジャーナリスト/『MUSICA』発行人)

1964年生まれ、東京都出身・神奈川県育ち。ロッキング・オン社で『BUZZ』や『ROCKIN'ON JAPAN』の編集長を歴任し、2004年に独立。2006年1月にサッカー雑誌『STAR soccer』を創刊し(現在は休刊)、2007年3月には音楽雑誌『MUSICA(ムジカ)』を立ち上げる。現在は編集/執筆活動のほかテレビやラジオでも活躍し、2014年からは音楽フェスティバル『VIVA LA ROCK』のプロデュースも行っている。

上田 唯人(『走るひと』編集長)

上田 唯人(『走るひと』編集長)

大学卒業後、野村総合研究所に入社。企業再生・マーケティングの戦略コンサルタントとして、主にファッション・小売業界のコンサルティングを行う。その後、スポーツブランド役員としてファイナンス・事業戦略・海外ブランドとの事業提携などを手がける。2011年に1milegroupを設立し、さまざまな制作やメディア運営に携わる。2014年5月『走るひと』創刊。講演やテレビなど、スポーツとカルチャーに関わる分野で、さまざまな発信を行っている。

鹿野 淳(音楽ジャーナリスト/『MUSICA』発行人)

大東駿介

大阪府出身。2005年、テレビドラマ『野ブタ。 をプロデュース』(日本テレビ)で俳優デビュー。映画『クローズ ZERO』シリーズ、『TOKYO TRIBE』、『海難1890』、NHK大河ドラマ『平清盛』、 『花燃ゆ』をはじめ出演作品多数。音楽好きとしても有名で、 フェスのMCなども務める。NHK大河ドラマ「いだてん~ オリムピック噺~」に出演。(公式サイト:https://www.shunsuke-daitoh.com/

三者三様、
それぞれのランニングとカルチャー

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みなさんランナーということで、まずはそれぞれ実際にどうやって走られているのかお聞きしたいと思います。
松島さんは、普段どんな感じで走られているんですか?
松島 ■
僕はトレイルランが好きで、普通の街を走ることはほとんどないんです。今は鎌倉の家から5分くらいで入れる裏山をよく走っています。普段はランニングウォッチも着けずに、何なら寝間着のTシャツとか短パンのままウォーターボトル1個だけ持って、1時間くらい走る。それで、「あー、すげー楽しかった」っていう、そんなランニングスタイルです。自然の中を走るのっていうのは、すごく楽しいんですよ。最近はレースにも出ずに、本当に走りたいときだけ走っています。
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松島さんは、ナチュラルランニング(シューズのサポート力に頼らず、裸足あるいはそれに近い状態で走ること)ムーブメントの火付け役にもなった『BORN TO RUN~走るために生まれた』(NHK出版)の編集をされたというご経歴もお持ちなんですよね。
松島 ■
もともとは10年前にアメリカで出版された本で、ざっくり言うと「年間6〜7割のランナーがケガをすると言われているなかで、人間にとって“走る”という行為は果たして無理なことなのか、それとも元来インストールされているひとつの能力なのか」という問を突き詰めていく内容です。それで日ごろから100km以上走っているようなメキシコの先住民族を訪ねるのですが、彼らは高性能シューズを履いているわけでも、最新のサプリメントやエナジーフードを食べているわけでもない。それなのにどうして、そんなにも長い距離を速く走ることができるのかを探るんです。本の中では、人間本来の力を活かして走るには、シューズで保護しすぎずに走るほうが自然で、結果的にケガもしづらくなるのでは、という選択肢を提示しています。それと同じように、人類は本来、真っ平らな場所を走るようなことってなかったはずなんですよね。常に土があって、根っこがあって、石もある。それで僕はトレイルランにハマってしまったというのもあります。

松島 倫明×鹿野 淳×上田 唯人×大東駿介

鹿野 ■
トレイルラン、すごく面白いですよね。人間力が凄く試されるもので、僕は苦手なんだけど、その応用力がない自分を知れたことが面白かったんですよね。皆さん、1度は絶対にやってみたほうがいいと思います。僕は基本的にランニングをしているだけで、8kmほどの距離を週4くらいで走っています。下北沢から世田谷公園、神田を通るコースか、月島から豊洲市場あたりまでを往復して戻ってくるコースを走ることが多いかな。それで、年に3回はフルマラソンの大会に出場する感じです。
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年に3回っていうと、結構な頻度ですよね。ちなみにどれくらいのタイムで走られるんですか?
鹿野 ■
ベストは3時間51分なんですけど、最近はずっとサブ4の壁を越えられなくて。走っている方なら分かると思うんですけど、40kmくらいで「サブ4いけそう」ってわかった瞬間、ギアを入れようとして脚をつるっていう……(笑)。ここしばらくは最後の2.1kmで負け戦を繰り返してます。上田くんは、僕よりもっと高レベルなところにいるよね。
上田 ■
そんなこともないですよ。僕自身が走っている人たちに話を聞くのが仕事だったりもするので、フルマラソンの大会にも取材として年間4、5回は出るんですけど。カメラを持って誰かと並走したり、街の風景を撮ったりしてきて。だけど今年、東京マラソンで、自分のなかで「やるからには頑張ろう」って決めて本気でトレーニングしたら、3時間7分の自己ベストが出ました。
松島 ■
ガチですね。
鹿野 ■
でも、そこまで速く走れちゃう人が、トップアスリート以外で走っている人たちに取材するとなると、もはや逆転現象になるわけですよね。だって聞き手が凄く走れちゃうわけだから。僕は「音楽を作れない」ことが自分の仕事にとって良いことだと思っているんです。だからこそ、探究心が生まれる。上田くんの場合は、自分自身がどんどん速く走れるようになっちゃって大丈夫なの?
上田 ■
まさにおっしゃる通りで、僕はこれまで意図的に「タイムを狙う」ってことをやってこなかったんです。編集長が2時間台で走っているってなったら、きっと「そういう雑誌」って思われちゃいますよね。でも、『走るひと』は速い遅い関係なく、“走ること”をどう捉えているかっていうのを具体的に聞いていこうとする雑誌なので。僕が速くなったらそのぶん、「こういう雑誌(ランニングカルチャー誌)ですよ」っていう媒体の考え方をより大きな声で伝えていかなければいけないんだろうなとは思っています。
鹿野 ■
一方で、2時間台で走るような人が「タイムだけが目的じゃなく、もっと広い魅力を感じて走ってるんだ」って言ったら、すごく説得力もありますよね。僕みたいな人が、「ランニングはタイムじゃなくてカルチャーなんだよ」って言ってもそれはそれでメッセージになるだろうけど、トップレベルまで突き詰めた人が示してこそ、伝わることがあると思います。
上田 ■
速い人が発する言葉だからこそ伝わることも、ゆっくり走っている人だからこそ共感を得られることもあるんですよね。本当に、いろいろな人がいてこそのランニングカルチャーだなと感じています。