早野忠昭 × 和田正人
早野忠昭

早野忠昭(はやの ただあき)

1958年生まれ。長崎県出身。一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター、日本陸上競技連盟総務企画委員、国際陸上競技連盟ロードランニングコミッション委員、スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会委員、内閣府保険医療政策市民会議委員。1976年インターハイ男子800m全国高校チャンピオン。筑波大学体育専門学群卒業後、高校教論、アシックスボウルダーマネージャー、ニシ・スポーツ常務取締役を歴任。

和田正人

和田正人(わだ まさと)

1979年8月25日、高知県出身。ワタナベエンターテインメントに所属し、同事務所の若手男性俳優D-BOYSのメンバーのひとり。現在は俳優業で活躍する。大学では陸上競技部に所属し、2002年の第78回箱根駅伝では復路9区を、区間記録第5位で走破した。当時のベストタイムは10000mが28分56秒00、ハーフマラソンが1時間2分57秒。大学卒業後はNECの実業団に入ったが、2年後に廃部となる。2004年7月に第1回D-BOYSオーディションに出場し、特別賞受賞により同年10月にD-BOYS加入。2005年「ミュージカル テニスの王子様」で本格的に俳優デビューし、最近では平瀬孝夫役でドラマ「陸王」にも出演した。

箱根を走ったという価値
それに向けた努力を認めてもらいたい

実業団引退後の選択肢が少ない

和田 ■
今回対談すると決まって、陸連の新しいプロジェクトが立ち上がり、それがJAAF RunLinkというのを初めて知りました。
早野 ■
日本陸連が携わってきたのは競技スポーツばかり。ところが、東京マラソンを代表するように、全国には市民ランナーと呼ばれる人たちが1000〜2000万人もいると言われています。そこに向けてのサポートをJAAF RunLinkが担っていこうというわけです。
和田 ■
パンフレットもオシャレですよね。
早野 ■
ランナーへのサービスだけでなく、大会を安心・安全に開催していく方法であったり、もっと言えばコーチ制度なんかにも手を入れたいと思っています。誰もがオリンピックを目指しているわけではありません。市民ランナーの皆さんが楽しく、長く、ケガをしないように続けていくためのコーチングも大切ですよね。そういうのを僕らは確立していきたいと考えているんです。
和田 ■
陸連と一体になって取り組まれていくんですか?
早野 ■
はい、一緒と言えば一緒なのですが……競技陸上とウェルネス陸上のふたつに分けて進めていきます。大きな枠での大会管理だけで終わらないのが、JAAF RunLinkの将来性だと僕は思っています。市民ランナーのデータ集積結果をもとに、各企業とビジネスをしていくことを目指しています。
和田 ■
新しいし、いい試みですよね。結構前からランニングブームとは言われていますが、そのわりに陸連やいろんなメディアを含め、どこかサポートが行き届いていないなというのを感じていました。やり方しだいで、充実した中身のあるものとしてもっと広がっていきそうな可能性を感じていましたが、まさにJAAF RunLinkがそのスタートになりそうですね。とくにコーチ制度には興味があります。
早野 ■
和田さんが実業団をやめる時に選択肢が少なかったように、頑張って陸上をやってきた人たちの将来の広がりが、あまりにも狭いじゃないですか。
和田 ■
そうですね。どこかの監督かコーチになれれば万々歳、そのまま企業に入ってサラリーマンを続けるか、ぐらいです。自分の場合は教師になる選択肢もありましたが、やはり狭いなと感じましたね。
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  • 和田正人

競技者の就職先を増やすために

早野 ■
誰もが、箱根駅伝を走った勲章を自慢しつつ、できれば大好きなことを仕事にしたいですよね。そういった競技者の将来についてもJAAF RunLinkでは真剣に考えていきたいと思っています。ウェスティンさん(ウェスティンホテル&リゾート)に、東京マラソンのスポンサーになっていただいたのですが、「どうしてスポンサードされようと思ったのですか?」と聞いたんです。そしたら「ウェスティンの各ホテルに、ホテルコンシェルジェのような【ランニングコンシェルジェ】を置いているんです」というお答えに驚きました。来日される外国人の中にはランニングされている人も多いんです。そんな時に「一緒に走りましょう」と言ってくれ、地図を見せて説明してくれるコンシェルジェがいれば、とても喜ばれるサービスでしょう。
和田 ■
確かに、そうですね。
早野 ■
プロのように何千万円も稼げないとしても、コーチ、先生と言われて尊敬されたり、好きなことをやれる選択肢が増えるのはウェルカムだと思いませんか?
和田 ■
はい、幅は広がりますよね。
早野 ■
誰でもすぐに走れる手軽さがランニングにはありますが、脚を外側に蹴り出している、内股で走っているなど、間違った走り方で続けてケガをしてしまう人もいます。その間違いを正してくれるコーチがいてくれた方がいいじゃないですか。フィットネスクラブにランニングのプロがいるのもありだと思います。競技者たちが就職する場所が増えれば、彼らも幸せですし、市民ランナーにしても身近に先生やコーチがいることでランニングライフの充実度が変わってくるでしょう。そんな世界になることをJAAF RunLinkは目指しています。
和田 ■
昔からずっと思っていたことですが、長距離ランナーで輝いた人やそこまでトップレベルではないけれど、箱根やインカレで活躍した選手は引退後の人生に、不安を抱えている人が多い気がするんです。その後の人生が輝いている人ってほんの一握りですよね。受け皿があまりにも少なかったと思うんですよ。そういう意味で、ウェルネス陸上に焦点を当てるのはいいなと思いますね。競技者って陸上をやっていたということを認められたいし、その価値を評価してほしいと本心では思っているんです。
早野 ■
箱根に出たすごい先生なんですと言われたいですよね?
和田 ■
もちろんです。その10〜15年の努力を認めてもらいたいですね。皆が合コンだ、彼女だっていう時に、朝5時に起きて朝練をしていたわけですから。プロと同じだけの努力をしているんです。そういった競技者が積み重ねてきた時間を認めてあげる受け皿が必要だと思います。
早野 ■
すごく切実な心の叫びですね(笑)。でも、和田さんのような人が代弁することで、少しずつ日本の陸上界の将来が変わっていく気がします。