早野忠昭 × 茂木健一郎
早野忠昭

早野忠昭(はやの ただあき)

1958年生まれ。長崎県出身。一般財団法人東京マラソン財団事業担当局長・東京マラソンレースディレクター、日本陸上競技連盟総務企画委員、国際陸上競技連盟ロードランニングコミッション委員、スポーツ庁スポーツ審議会健康スポーツ部会委員、内閣府保険医療政策市民会議委員。1976年インターハイ男子800m全国高校チャンピオン。筑波大学体育専門学群卒業後、高校教論、アシックスボウルダーマネージャー、ニシ・スポーツ常務取締役を歴任。

茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ けんいちろう)

1962年生まれ。東京都出身。理学博士。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課修了。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現在に至る。専門は脳科学、認知科学。

2020のレガシーとして、
誰もがスポーツを
楽しめる環境を。

自然と走りたくなるような
仕組みづくり

茂木 ■
日本人は「走る人」と「走らない人」にパキッと分かれている気がします。僕は「走らない人」だと思われがちですが(笑)、実際には子供の頃からずっと走っています。
先日、健康診断を受けたところ、体重はあと9キロ落とした方がいいと言われましたが、中性脂肪などの数値はすべて健康値でした。これって、走っているからですよね。
早野 ■
そうかもしれませんね。国民医療費の削減にランニングは、有効だと考えています。
まず取り組むべきは、走りやすい環境を整えることです。たとえば、企業が走る社員に対して「フィットネス・ポイント」を与えたり、ボーナスを支給したりするなど、仕事と同じように評価する。そのくらいしないと、膨大な医療費削減にはつながりませんよ。
茂木 ■
僕のランニングの最小単位は片道1分なんです。僕の著作にも紹介していますが、脳科学的な実験のパラダイムでいうと、0.1秒くらいでも脳の活動は劇的に変わるんです。(※「走り方で脳が変わる!」(茂木健一郎 著))
基本的には、僕は毎日10キロ走りますが、真面目過ぎず、三日坊主を受け入れる「ゆるさ」が、長続きの秘訣かもしれません。
早野 ■
どこで教わったのか、「20分以上走らないと脂肪が燃えないみたい」と思い込んでいる人が多いと思います。でもたとえば「脳科学的には5分でも良い」というエビデンスがあれば「なんだ5分でも良いのか」となり、走ることの敷居が下がる。実際に走ってみると、頭の中がすっきりして身体も元気になるから、仕事のパフォーマンスも上がる。自分の自信にもつながるなど、いい循環が始まるはずです。だから企業は、従業員が自然に走りたくなるような習慣づくりを考えるべきではないか、と思います。

JAAF RunLinkが目指す
ランニングビッグデータ

茂木 ■
僕は「旅ラン」も好きなので、初めて訪れる土地でも気持ち良く走れるコースがわかると嬉しいですね。
早野 ■
JAAF RunLinkでは、まず大会記録や日頃のトレーニング記録などを管理できる機能を検討していますが、参加する人たちが自分のランニングコースを紹介し合える機能もあるといいですね。
茂木 ■
ぜひお願いします。道路の交通量やトイレの場所などは、地図を見ただけではわからないので、地元の方の推薦コースが検索できたらいいな。
早野 ■
JAAF RunLinkのデータプラットフォームでは、陸連に提出される大会記録を有効活用する方向性と、既存のアプリと連携した方向性を考えています。ランニング・アプリと連携し、走った位置情報をビッグデータとして活用できれば、初めて行った場所でも他の人が走っているコースを可視化して表示することができるし、面白いですよね。
茂木 ■
ランニング・アプリの使い方も、人それぞれです。僕はペースを作らずに走るけど、アプリでペース設定する人もいますよね。他の人のランニングスタイルをもっと知りたいな。
早野 ■
どんなペースで、どのくらいの距離を走ると健康に良いのか。継続して走っている人は、どのくらいの頻度やペースで走っているのか。いろいろ参考になりそうですね。

一人で、仲間同士で集まって、
自由にランニング。

早野 ■
ランナー同士のコミュニケーションもサポートしたいですね。気の合う仲間とグループで走りたい人たちのために「この地域で一緒に走る人を探しています」と呼びかけるなど、ランニング・コミュニティをサポートする機能もあったらいいと思いませんか。SNSで「この日、このルートを走りませんか?」と発信して、都合がついた人が集まってその時だけ一緒に走ってもいいし。
茂木 ■
ついサボりがちな人は、誰かと「約束」しちゃった方が続くかもしれませんね。でも、僕は一人で走るのが好きです(笑)。仕事ではいつも人と一緒にいるから、ランニングの時くらい一人でいたいのかな。一人で走っていると自分に出会える。自分に戻っていく感じがする、といってもいいかもしれません。
早野 ■
ランニングは自己編集できるのがいいところです。「自分は自分」というランナーは一人で走ればいいし、自然が好き、景色を楽しみたいなど、それぞれ自由に楽しめる。

スポーツを「文化」として
根付かせるために。

茂木 ■
小澤征良さんは、「自分は子供の頃、常に音楽に囲まれたとても幸せな環境で育った。だから今、音楽があって当たり前の人生を歩んでいる」といったことを、著書の中で語っています。これを読んで「子供の頃の環境って大切なんだな」と心から思いました。これは、スポーツにも言えることだと思います。日本にはスポーツを「文化」として捉える視点がなかったので、子供の頃から日常的にスポーツを楽しむ環境を作り、「文化」として育てることが必要です。
早野 ■
その視点は重要です。「これ面白い」「やりたいな」と思える風土を作って、スポーツを「文化」として根付かせたいですね。
僕が8年間を過ごした米国のコロラドのボウルダーでは、仕事の後に走って、仲間とビールを飲んで語り合う、というライフスタイルが定着していました。そんな世界観を日本にも広げたいと思っています。そのためには企業や働き方に対する意識改革も必要なので、JAAF RunLinkで取り組んでいきたいと思っています。